MENU

バーチャルオフィスで税理士や公認会計士は開業できる?知っておくべき基礎知識

近年、低コストで開業できるバーチャルオフィスが注目を集めています。しかし、税理士や公認会計士などの「士業」がバーチャルオフィスを利用できるかどうかは、それぞれの法的規制によって異なります。

本記事では、士業のバーチャルオフィス利用の可否、そのメリットとデメリット、そして利用する際の注意点について詳しく解説します。

目次

バーチャルオフィスで税理士や公認会計士は開業できる?

士業と呼ばれる専門職の開業方法として注目されているバーチャルオフィスですが、すべての士業がこのサービスを利用できるわけではありません。特に税理士と公認会計士では、バーチャルオフィスでの開業可否が異なります。

それぞれの法的要件や規制の違いを理解することで、適切な開業方法を選択することができます。

税理士は開業できない

税理士はバーチャルオフィスでの開業が認められていません。税理士法によると、税理士事務所を設ける場合は、その所在地を税理士会に登録する必要があり、「所在地」は実際に税理士業務を行う物理的な場所でなければなりません。

日本税理士会連合会の見解によれば、バーチャルオフィスは「事業の実態を伴わない」と判断されるため、税理士事務所としての登録が認められていません。このため、税理士は実際に執務を行う物理的な事務所を設ける必要があります。

参考:税理士事務所FAQ|法第40条

公認会計士は開業できる

公認会計士はバーチャルオフィスでの開業が可能です。公認会計士法では、公認会計士事務所の開設には日本公認会計士協会への登録が必要ですが、バーチャルオフィスの使用を明確に禁止する規定はありません。

ただし、バーチャルオフィスを利用する場合でも、業務の実態を伴う必要があり、単なる住所貸しサービスではなく、郵便物の転送や電話対応などの基本的なサービスが含まれているバーチャルオフィスを選ぶことが重要です。

士業がバーチャルオフィスを利用するメリット5つ

バーチャルオフィスは、物理的なオフィスを持たない働き方を可能にするサービスです。士業がこのサービスを利用することで得られるメリットは多岐にわたります。特に開業初期や個人で活動する専門家にとって、効率的な業務運営をサポートする重要な選択肢となっています。

開業コストを削減できる

バーチャルオフィスを利用することで、物理的なオフィスを借りる場合と比較して大幅なコスト削減が可能です。東京や大阪などの都心部では、20平方メートル程度の小規模オフィスでも月額10万円以上の賃料がかかることがありますが、バーチャルオフィスは月額5,000円から3万円程度で利用できるため、初期投資を80〜95%削減できます。

また、敷金・礼金・管理費などの初期費用や、光熱費・インターネット回線費用などのランニングコストも不要になります。これにより特に開業初期の資金負担を大幅に軽減することができます。

プロフェッショナルなイメージを確立できる

バーチャルオフィスを活用することで、一等地の住所を使用でき、専門家としてのブランドイメージを向上させることができます。丸の内や赤坂などの一等地のビジネス街の住所を持つことで、クライアントからの信頼感が高まると言われています。

ビジネス街の住所を持つ専門家は、住宅地の住所を使用する場合と比較して、より高い信頼度評価を得られる傾向があるでしょう。さらに、受付対応や電話応対などのサービスにより、一人で活動していても組織としての信頼性を演出することができます。

プライバシーを保護できる

バーチャルオフィスを利用することで、自宅住所を公開せずに済むため、プライバシー保護につながります。多くの専門家が自宅と仕事の境界線を明確にするためにバーチャルオフィスを選択しています。

クライアントとの書類のやり取りや名刺・ホームページなどに自宅住所を記載する必要がなくなるため、プライベートと仕事を分離することができます。特に女性の専門家にとっては、安全面でのメリットも大きいといえるでしょう。

郵便物の管理や電話応対コストを削減できる

バーチャルオフィスでは、郵便物の受け取りや転送、電話応対などのサービスが含まれているため、これらの業務にかかる時間とコストを削減できます。

専門家は多くの時間を事務作業に費やしていますが、バーチャルオフィスのサービスを利用することで、この時間を大幅に削減することができます。また、専任の受付スタッフが対応するため、不在時にも連絡を取りこぼすリスクが減少します。本来の専門業務に集中できる環境が整うことで、業務効率と収益性の向上が期待できます。

オプションで会議室が利用できる

多くのバーチャルオフィスでは、追加料金を支払うことで会議室やコワーキングスペースを利用することができます。主要なバーチャルオフィスサービスでは、月に数時間から数十時間の会議室利用権が比較的手頃な料金で提供されています。

これにより、クライアントとの対面ミーティングが必要な場合でも、プロフェッショナルな環境で対応することが可能です。また、全国各地に拠点を持つサービスであれば、出張先でも会議室を利用できるなど、柔軟な働き方をサポートします。

士業がバーチャルオフィスを利用するデメリット

バーチャルオフィスには多くのメリットがある一方で、士業がこのサービスを利用する際にはいくつかの注意すべきデメリットも存在します。

特に対面でのクライアント対応や信頼性の構築が重要な士業にとって、これらのデメリットを理解し、適切に対処することが重要です。

顧客からの信頼性の低下リスクがある

バーチャルオフィスを利用すると、物理的な事務所がないことで一部のクライアントから信頼性を疑問視される可能性があります。特に年配の顧客層では、「実際のオフィスを持たない士業に対して信頼感が薄れる」と感じる方も少なくありません。

また、高額な案件や長期的な関係を築く必要がある業務では、実際に訪問できる場所があることで安心感を得るクライアントも多いでしょう。このリスクを軽減するためには、ウェブサイトの充実やオンラインでの実績公開、必要に応じてクライアント先での面談など、信頼構築のための代替手段を用意することが重要です。

行政手続きや銀行取引での障壁出る可能性がある

バーチャルオフィスの住所を使用すると、一部の行政手続きや銀行口座開設、クレジットカード発行などで制限や審査の厳格化に直面する可能性があります。特に事業用口座の開設では、バーチャルオフィスの住所が「郵便物受け取り代行」と判断され、審査に通らないケースが少なからず存在します。

また、一部の行政機関や専門団体では、実地調査が行われることもあり、バーチャルオフィスでは対応が難しい場合があります。こうした問題に備えて、代替の住所を用意しておくか、バーチャルオフィス事業者と事前に相談しておくことが重要です。

士業がバーチャルオフィスを利用する際の注意点

バーチャルオフィスを利用して士業を営む際には、特有の注意点があります。法的要件の遵守や情報セキュリティの確保など、専門家としての責任を果たすために必要な対策を講じることが重要です。以下では、バーチャルオフィスを利用する士業が特に注意すべきポイントについて解説します。

業法上の制限と登録要件の確認する

士業ごとに適用される法律や規制には違いがあるため、バーチャルオフィスの利用が認められているかを事前に確認することが必須です。弁護士法、税理士法、公認会計士法など、各士業を規制する法律には事務所に関する規定があり、これらの要件を満たさないと業務を行えないだけでなく、行政処分の対象になる可能性もあります。

開業前に所属する団体や監督官庁に相談し、バーチャルオフィスが登録要件を満たすかどうか確認することが重要です。また、定期的に法改正や規制の変更をチェックし、常に最新の要件に適合しているか確認する習慣をつけましょう。

機密情報と個人情報の管理リスクを確認する

士業は多くの機密情報や個人情報を取り扱うため、バーチャルオフィスを利用する場合でもセキュリティ対策は万全にする必要があります。日本の個人情報保護法では、個人情報取扱事業者に対して安全管理措置を講じる義務が課されており、違反した場合は厳しい罰則が科される可能性があります。

バーチャルオフィス事業者のセキュリティポリシーや郵便物・書類の取り扱い方法、スタッフの教育状況などを事前に確認し、必要に応じて追加のセキュリティ対策を講じることが重要です。また、クラウドストレージやセキュアな通信手段の活用など、リモートワークに適した情報管理体制を構築しましょう。

緊急時の対応と事業継続性を考えておく

バーチャルオフィスを利用する場合、物理的な事務所がないことから、緊急時の対応や事業継続性に関する計画を事前に策定しておく必要があります。多くの中小企業や個人事業主では事業継続計画(BCP)の策定が十分でない傾向があります。

サーバーダウンや通信障害発生時の代替手段、自然災害発生時のクライアント対応方法、重要データのバックアップ体制など、あらゆる状況を想定した対策を準備しておきましょう。また、バーチャルオフィス事業者自体のBCPについても確認し、サービス停止時の影響を最小限に抑える方法を検討することが重要です。

まとめ

バーチャルオフィスは士業にとって魅力的な選択肢ですが、職種によって利用可否や適性が異なります。税理士は法律上の制限があり利用できませんが、公認会計士は条件付きで利用可能です。バーチャルオフィスのメリットとしては、開業コストの大幅削減、一等地の住所によるプロフェッショナルなイメージ構築、プライバシー保護、郵便・電話対応の効率化、必要に応じた会議室利用などが挙げられます。

一方、デメリットとしては顧客からの信頼性低下リスクや行政手続き・銀行取引での障壁の可能性があります。バーチャルオフィスを利用する際は、業法上の制限と登録要件の確認、機密情報と個人情報の管理体制の構築、緊急時の対応と事業継続性の確保が重要です。

士業としての責任を果たしながら効率的に業務を行うためには、これらのメリット・デメリットを十分に理解した上で、自身の業務スタイルや顧客層に合ったオフィス形態を選択することが大切です。バーチャルオフィスは経費削減の手段としてだけでなく、働き方改革の一環として捉え、戦略的に活用することで、業務の質と効率を高めることができるでしょう。

目次